「面白かったねー」
「僕は一回目ですからねえ。事故の回を除くと」
 てっぺんに上る前より更に若干人が増えた気のするプールの傍を、少々のふらつきを感じながらぺたぺた行進する二人。いやまあ、ふらふらしてるのは僕だけなんですけどね。それも多分当人しか気付かないくらいの少々さで。初めの一回にこうならなかったのは激痛が気付け薬になったって事かな。
 まあふらふらどころか動けなかったんだけど。
「楓さんさっき奥って言ってたけど、こっちでいいのかな?」
「だと思いますけど。監視員の人に訊いてみます?」
「そうだね。案内図とかどこかにあればいいんだけど、これだけ広いとそれを探すのも一苦労しそうだし」
 仰る通り、探し物をするために探し物をしてたら労力が倍近くなるだけなんですよね。入口近くにあったんだろうからちゃんと見ておけば良かったなあ。それかウォータースライダーの係員さんに聞いても良かったか。
 まあ後悔先に立たずということで、
「すいませーん」
 高い椅子の上から安全管理中の監視員さんに声を掛けた。お仕事中申し訳ないです。
 ―――どうやらこの方も僕達が家守さんの関係者だと知っていたらしく(まあ目の前の流れるプールを一緒に流れてたから顔は知られてて当たり前なんですけどね)わざわざ監視台から降りてきて、僕と栞さんの両方に様付けかつ丁寧な口調で道案内をしてくれた。
 それによると、五十メートルプールは壁で仕切られてこことは別部屋になっているらしい。つまり一番奥だと思っていた壁の向こうに、更にデカイ部屋が備わっているという事で。
 どれだけ広いんですかここは。
『ありがとうございました』
 こっちが恥ずかしくなるくらいの丁重な扱いに、僕と栞さんも二人揃って丁寧にお辞儀。
「いえいえ。では、引き続きお楽しみください」
 監視員さんはそう答えると、再び監視台を上り始めた。そして上りきった監視員さんにもう一度頭を下げ、僕達は言われた通りに奥を目指す。
『飛び込みは禁止ですよー』
 ドボンという音がしたのち、背後から先程の監視員さんが飛び込んだ誰かに注意する。と、身に憶えのある隣の女性はビックリした様子で振り返った後、恥ずかしそうにこちらに微笑んで見せるのだった。最初にやらかしましたもんね。
「楓さんってやっぱり凄い人なんだろうねー。同じ仕事してるって言っても、栞達までこんな話し方されるような立派な人と結婚するなんて」
 確かにそうかもしれないですね。霊能者社会がどんなものなのかは知りませんけど、僕でも知ってるような一般社会なら実力者と知り合うとすれば本人もそれなりの立場ないと難しいですし。仕事に遅刻しそうになって食パン咥えて走ってたら交差点で同じく急いで走ってた金持ちとぶつかりでもしない限りは。
 まあ家守さんは出勤車だから、そうなっても運命の出会いどころかただ交通事故なんですけどね。
 なんて長々と考えながら、
「ですよね」
 返事はこれだけ。霊能者が幽霊こさえるなんてシャレになりゃしませんからねぇ。
「あ、そう言えば孝一くんさ」
「はい?」
「今そういう人は『ズバリいません』なんだよね?」
 はい。
「はい?」
 また随分話に間が空きましたね。
「今までは?」
「俗に言う年齢イコール彼女いない暦です」
「そっか」
「はい」
 で、なんなんでしょう。唐突に心の臓を抉られて僕はどういう反応を返せば?
「じゃあさ、付き合うとまではいかなくても女の子を好きになった事とかは?」
 はい。―――じゃなくて、
「そりゃそれくらいはありますけど」
「振られちゃった?」
 いいえ。
「そこまですらいってませんよ。なんにもしませんでした」
「そっか」
 はい。
「大概そんなもんですよ。多分」
 自分の擁護って訳じゃないですけど。いややっぱりちょびっとはそれもありますけど。
「ふーん」
「栞さんはどうなんです?」
「なんにもないよ」
「なんにもって、どの程度?」
「なーんにも」
 伸ばしたのは強調の意味なんでしょうか。
「なーんにもですか」
「そう。なーんにも」
 薄ら笑い浮かべながら話す事じゃないでしょうに。お互い様ですけど。
「ダメダメですねえ二人揃って」
「そうだねー」
 するとその時、
「おにーちゃん、だれとおはなししてるの?」
 足元から第三の声が。見下げるとそこには恐らく幼稚園くらいの小さな女の子。顔はこちらを向いているが、体の向きは目前の小さい子向けの浅いプールへ。浮き輪にすっぽり収まっちゃって、これから飛び込もうとしてたのかな? 監視員さんに怒られちゃうよー。
「あー、えっと、お兄ちゃんはお芝居をやっててねー」
「すす、すみません!」
 母親さんらしき人、滑り込み怪しがり。
 ですよねー。どっからどう見ても怪しいですよねー。
「ねーおかーさん。このおにーちゃん、だれかとおはなし……」
「本当にすみません! ほら行くわよ!」
「むー」
 ………情操教育上宜しくないものをお見せして、真に申し訳ないです。
「大丈夫?」
 いいえ。
「大丈夫ですよ」
「ねーおにいちゃん、だれとおはなし………」
 今度は男の子。いや性別はいいですけどまたですか。
「こら! 知らない人に声掛けちゃ駄目って言ったでしょ!」
「だって、おかあさん……」
 ………情操教育上以下略。
「大丈夫じゃないよね?」
 はい。
「さすがに二連続はちょっと堪えますねえ」
 変質者とかの方々は他人のこういう反応が楽しいんでしょうか? 僕にその素質は無いようなので、取り敢えず一安心。してる余裕なんかないですけどね。
 栞さんに気の毒に思われてるのも顔見れば分かるし、なんとも格好のつけようがないなあ。はぁ。
「ごめんね、こんな人ごみでベラベラ喋っちゃって。―――あ、返事しなくていいよ。ごめんごめん、つい。だって口に出さないと謝れないから仕方ないでしょ? 悪いのは栞なんだし………ってだから喋っちゃダメなんだってばぁ〜! ごめん、本当にごめんね」
 自分の矛盾にあたふたしながら数段構成でで謝る栞さんを見ていると、喋りたくなくてもついつい噴き出してしまうのでした。
 プールでクスクス笑い出すいい年した男ってのも中々危ないかな。すぐ近くに小さい子ども達がたくさんいる事も考えると。
「わ、笑わないでよぉ。わざとやってるんじゃないんだから………じゃなくて、笑っちゃダメだよ! もも、もぉ〜! 早く行こっ!」
 子ども達の好奇の視線と親達の不審の視線を背中に受けながら、何かに引っ張られるようなパントマイムを披露しつつニヤニヤ笑いながら走る男はそのまま退場。うん、今僕は最高に怪しい。それを理解すると、笑いながらも涙が流れてきた。怪しさ更にアップ。
 それでは、失礼しました皆様方。
 いざ遠くに見える扉のもとへ。


「あの二人、上手くやってるかなー」
「別にお互いどうこうって訳じゃねえんだろ? 正直余計な事だと思うんだが」
「しかし普段から仲は良いようだからな。あり得ないという事もないだろうさ」
「でも、どっちかって言うとお友達みたいな感じだと思うであります」
「そうなるのなら自然になりますし、ならないのなら私達が何をしてもなりませんよ。ちょっかいを出すのは楽しいですがね」
「そうかなあ。しぃちゃんがゴムボートの上で胸でも押し付ければどーにでもなりそうなんだけど」
「だからなんでオメーはんなオッサンみてーな考え方してんだよ」
「そんな事言ったら成美殿なんかいっつも押し付けてるでありますが?」
「ウェンズデー!」
「ひいーっ!」
「家守さんの時はどうだったんですか? まさか今仰ったようにした訳ではないですよね?」
「お。オレも興味あるな」
「えー? うーん、たまたま仕事で一緒になって、面白い人だなーってちょくちょく会ってたらなんとなく?」
「『なんとなく』ってまた軽いなオイ」
「あ、動機が『なんとなく』なだけで一緒になるからにはちゃんと……ねえ? ほら、そういう感情なんかもちゃんとあるって」
「何ガラにもなく恥ずかしがってんだよ気色わりい」
「じゃあだいちゃんはなっちゃんの事どう思ってるのかはっきり言える? 今ならなっちゃんには聞こえないだろうし、言ってみてよ」
「………ただのクソガキだな」
「目ぇみて言ってごら〜ん」
「墓穴ですねえ。んっふっふっふ」
「待たんかウェンズデー!」
「泳ぎでなら絶対に追いつかれないでありますー!」


「この、はぁ、向こう、はぁ、だよね?」
 全力疾走でやっとの事で扉の前に到着すると、その目前で膝に手をついて肩で息をする栞さん。
「そう、はぁ、だと思い、はぁ、ます」
 と答えて同じポーズで同じように息を切らせつつ、頭を持ち上げて扉の横にある「五十メートルプール」と書かれた案内板を見上げる。間違いなくこの先が目的地だと確認はできたけど、それを伝える気にはなれなかった。
 あぁ疲れた。喉渇いた。
「ふぅー……すぅー……。よし! じゃあ入ろう!」
 大きく深呼吸をすると、上体をがばっと持ち上げて回復完了。僕にはそこまでの体力はないですよ栞さん。老化したかな。
 しゃっきりしている一方とは対照的によろよろと歩いて扉の片方に手をかける。でも扉にもたれていると言っても差し支えはないと思います。とにかくそうして二人同時に扉を押し開けると、
「待たんかー!」
「イヤでありますー!」
 怒りで我を忘れておられる真っ最中でした。結構泳げるじゃないですか成美さん。浮き輪付けてないのに。幽霊二人がバッシャンバッシャンやっているのを見ても分かる通り、他には見事に誰もいません。良かった良かった。
 それを確認して安心すると、成美さんとウェンズデー、そしてその二人を眺めている清さんを除いたあとの二人がチャプチャプとこちらに近付いてきた。
「来た来た。どうだった? 面白かった?」
「あ、はい。孝一くんが後ろに座っちゃったからちょっと怖かったですけどね」
「なんだ孝一? なんでそんなバテた顔してんだ?」
「不審者に間違われてその場から逃走したんだよ………」
 そんな冗談になってない冗談はまあいいとして、栞さんがさっそく入水し始めたけど僕はちょっと入らずに休憩。今水に入ったら足がつりそうだ。
 プールサイドに置かれていた成美さんの浮き輪の傍でみんなの思い思いの活動を眺めていると、不意に家守さんが水から上がってこちらへやってきた。
「家守さんも休憩ですか?」
「休憩って言うか、お節介の続き」
 なんですかそりゃ。
 僕の隣に「よっこらせ」とわざとらしく声に出しながら腰掛けると、その顔にいやらしい笑みが浮かぶ。
「駄目じゃんこーちゃん。話聞いたらしぃちゃん、最初はゴムボートの後ろに座りたがってたみたいだよ?」
 なるほどお節介ですか。せっかく体の疲れが抜けてきたのに、今度は精神的に疲労させるおつもりですか?
「何が駄目なんでしょうか」
「またまた、分かってるくせにぃ。じゃあこーちゃん、なんで前は嫌だったの?」
「栞さんと同じく、怖かったからじゃないですかね?」
「ふうん」
「僕と栞さんだけでウォータースライダーに行かせたのも、こういう話をしたかったからですか?」
「やっぱばれてた? うん、そーだよ」
「なんでまたそんな事を」
「だってなんかさ、端から見てたらお似合いだよ? 二人ともぽやーってしてるし」
「それって馬鹿にされてるわけじゃないんですよね?」
「してないしてない。冗談抜きで褒めてるつもりだよ。こーちゃんから見たって、しぃちゃんは良い人でしょ?」
「はぁ、まぁ………でもとにかく、今のところそういう事はないですから」
「今のところ、ねえ」
 つい出てしまった一言に家守さんはにやりと笑う。でも結局今の僕にそういうつもりがないなら同じ事でしょう? なのであんまり深く考えないでください。大吾と成美さんに似たような事してるから言うのは止めときますが。
 ………そりゃ確かに栞さんは良い人ですよ? ですけども、だからっていちいちそうなってたらどれだけ惚れっぽいんですか僕は? 良い人ってだけならそれこそ大学にだっていっぱいいるでしょうし、それに全部惚れろと?
 家守さんの言い分を否定したいがために自分でもおかしいと気付くくらいに論理を飛躍させ、その上で「あり得ない」と結論付ける。おかしくたって結論は結論さ。出した以上はちょっとやそっとじゃひっくり返らないよ。
 そうやって自分を無理矢理納得させると、何やらみんな揃って水から上がってきた。ついでに成美さんはウェンズデーを追いかけるのはとっくに諦め、それからはやっぱり大吾の背中にしがみついていましたとさ。
「なになに? みんなして休憩?」
 さっきまでのいやらしい笑みは何処へやら。
「ううん、これから清さんと競争するんです。だからいったん仕切り直し」
「オレとコイツは休憩だ。混じったところで勝てっこねえからな」
「と言うか、ウェンズデーを追いかけてて本気で疲れたのだ。もう足が動かん」
 との事で、陸にあがっても背中から降りようとしない成美さん。大吾が床に腰掛けると、その背中からずり落ちて寄り添うか寄り添わないかというくらいすぐ隣に座る。今日はやけに積極的だなあ。成美さんにしては。
 そんな二人の様子を眺めてる間に第1コースに栞さん、第二コースに清さん、第三コースにウェンズデー、審判は家守さんと準備完了。
「飛び込んだ拍子にポロリしちゃわないように気を付けてねー!」
「し、しませんよぉ。大丈夫ですって」
「それじゃあ位置について! よーい………どん!」
 と同時に三者一斉にスタート! ついでに家守さんもゴール判定のためにプールサイドをスタート!
 転ばないでくださいよー。
 綺麗に飛び込む栞さん・清さんでしたが、ウェンズデーだけは飛び込むと言うよりその場で前に倒れただけのようにぽとりと水面に落下。まあジャンプはやっぱり無理か――と思ったらウェンズデー選手速い! 走ってる家守審判より速い! さすがペンギン、まるで弾丸のようであります!
 コースの側面、中央辺りから眺めている僕達の前をあっという間に通過し、残り半分。彼はここまで一度も息継ぎというものをしていません。多分ゴールまでずっと。
 そんなどう考えても一人勝ちなウェンズデーを見ていても失礼ながらつまらないので、デッドヒート中な栞さんと清さんを眺める事にしよう。今は……ちょっとだけ栞さんが勝ってるかな?
 先頭からかなり送れて僕らの前を通過した二人は、それでも充分に早いのでした。ちなみにその頃その先頭は………平気でコースを往復してました。息止め同様、競うつもりはないって事なのかな。
 あー、でも三人とも気持ちよさそうだなあ。見てる分には栞さんの言ってた「思いっきり泳ぐのは気持ちいい」というのも分かる気がする。実際にやったらそれどころじゃなくなるのは確実だけどね。
 それにしてもなんて言うか、速いんだから当たり前なのは当たり前なんだろうけど見てて綺麗だなあ。泳ぐフォームが。特に栞さんなんか普段の(と言うか主に料理中の)抜けた感じがしないって言うか。本当に綺麗………って、なんか見とれてる間に違う意味含みだしてない? 綺麗なのはフォームであって――――いやそりゃ、まったく否定するつもりもないですよ? 綺麗……うん、綺麗です。認めましょう。でもメインはそっちじゃなくて、普段の栞さんと様子が違うから、何て言うんだろう、格好いい? そう、それそれ。栞さん格好いいですよ。もちろん清さんだって格好いいですよ。
 半分を過ぎて後ろから眺めるようになると二人の差は殆ど分からなくなってしまい、ゴールで待つ家守さんの判定を待つ事になる。そして今、二人がゴール!
「しぃちゃんの勝ちー!」
 その判定に観覧席の三人から拍手が沸き起こり、栞さんはバンザイ。さすがに息が上がっているらしく、喜びの声は聞けなかったけど。


「えへへ、やった」
 戻ってきてやっと栞さんは控えめな疲れた声でそう言うと、控えめにピースサインを見せた。
 一方の清さん、息が上がってても笑うのは忘れない。
「やっぱり、敵いませんねえ。んっふっふっふ」
 いえいえ、勝敗関係なしにどちらも凄かったですよ。
 ……一番凄いのはまだ泳ぎ続けてますけどね。ずっと見てた訳じゃないけど、まだ一回も息継ぎしてないんだろうなあ。水の中を飛ぶというのはよく聞く言葉だけど、なんであんなちょっとパタパタしてるだけであそこまでのスピードが出せるんだろう?
 でも目の前にいる二人も、同様とまではいかなくても速かった。ので、素直に感心する。
「凄かったですよ栞さん。まさか本当に清さんに勝っちゃうなんて」
「えへへ。でもね、泳ぎは今の所に住むようになってから、清さんに教えてもらったんだよ?」
 ほほう、そうだったんですか。――して、それは清さんが名コーチなのか、それとも栞さんに才能があったのかどっちなんでしょう?
「いやぁ、教えたと言っても私は大した事はしてませんよ。みなさんと海なりに遊びに出かけた際に泳いでいたら、喜坂さんが泳ぎかたを真似ただけなんですから」
「またまた〜。清さん先生、結構厳しかったよ〜?」
「そーそー。しぃちゃんなんか、心配になるくらい遠くまで連れて行かれてたもんねえ」
「最終的にバテて清サンに引っ張られて帰ってきたよな」
「何故かわたしまで引っ張り回されて……浮き輪じゃなかったら今頃海の底だぞ……」
「鬼コーチじゃないですか」
「ありゃあ、非難轟々ですねえ」
 そんな感じで、クスクスとこそばゆい笑い声が誰からともなく上がり始める。


 それから暫らく自分なりに本気で泳いでみたらすぐバテたり、奥に行くほどだんだん深くなっているのに気付かず、足がつくと思ったのか、中央辺りから水に入った成美さんがそのまま沈んで数秒上がってこなくて慌てたり、そんな成美さんを引き上げようとして潜って近付いたら上から飛び込んできた大吾に踏みつけられてこっちが溺れそうになったりしていると、入口のほうからドアを開く重い音が。そっちを見ると、結構な数の人が入り込んできていた。どうやら団体客らしい。
 ありゃ、これはちょっと残念な展開。
「あちゃ〜、とうとうここにも人が来ちゃったねぇ。どうする? なんだかんだで結構遊んだし、そろそろ帰る?」
「と言うか、そうするしかないですよね」
 円状の流れるプールはともかく、ここは見晴らしが良すぎて水しぶきとかすぐ見えちゃいますし。
「栞達がじっとしてれば、孝一くんと家守さんはまだ遊べるよ?」
「それはちょっと気が引けますね」
 要するにみんなに待ってもらってまで泳ぐって事ですよね? それは辛い。待たせるのもそうだし、この場でただ泳ぐだけっていうのも。
「じゃあしゃーねえな。帰るか」
「仕方ないな」
「ウェンズデー! 帰りますよー!」
 清さんが両手で作った輪を口に当ててそう大声を出すと、水中のウェンズデーはこちらに急カーブしてきてそのまま水から上がってきた。そして全身を震わせて脱水。ぷるぷるなんて生易しい勢いじゃないですねアレ。

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