感心するのだが、それに浸っているわけにもいかない。
「いや、こいつは……」
 愛坂ではない同行者に目を遣った田上は、表情を曇らせた。
 一方その愛坂ではない同行者は、にやりと口の端を持ち上げてみせる。
「あたしなんかを愛坂さんと一緒にしちゃあ失礼ってもんですよねえ? 田上さん」
「そりゃそうだけど、何だよ。言いたいことでもありそうだな」
「いえいえ、言わずもがなですから」
 無視することにする田上。
「えーと、こいつは浮草っていいます。一応俺らの仲間で、露出壁のある変態です」
「いやいや田上さん、あたしのは着るのが面倒だから着ないことがあるってだけで、変態とかそういうんじゃないですって。裸くらい、よっしー以外の誰かに見られたからなんだってんですか一体」
 もう何度も繰り返してきた問答ではあるし、ならばこれも続けて無視したい田上であった。が、とはいえ浮草の紹介中にその浮草の話を無視するというのも、金剛とシルヴィアに悪いだろう。そう思って、渋々ながらもここは反応することに――いや、悪いというなら、こんな話を聞かせてしまうこと自体が悪いということくらいは、分かってはいたのだが。
「何言ってんだ、詠吉の前でも脱いでるじゃねえかお前」
「それこそ何言ってんですか、彼女の裸見てもなんにもしないのがよっしーのいいところなんじゃないですか。好きな人の好きな所を時々確認したくなることの何がおかしいと?」
 ――……。
 ――……はあ。
「とまあ、こういう奴です。これ以上は勘弁してください」
「お、おお」
 金剛が引いていた。田上は無性に悲しくなった。
「スキなヒト! ワタシそうイう話ダイスキだヨ!」
 シルヴィアが食い付いてきた。田上は胃が痛くなってきた。
 が、ここで助け舟を出してくれたのは金剛。
「勘弁してくれと言っているだろうシルヴィア。……あー、こいつは無視してくれて構わんぞ」
 ――ああ、鬼は出来た人達ばっかりだなあ。
 感心しつつ、ほっと胸を撫で下ろす。シルヴィアが浮草の話に食い付いたというのは、単にその話長引くというだけでなく、シルヴィアが自身の話をし始めるという危険性があったのだ――いや、何も田上がそういう話を嫌っているというわけではない。むしろ鬼に関する話なら聞ける限り聞きたいという思いすらあったのだが、
 ――浮草がなあ。あからさまに興味なさそうな対応すんの目に見えてるしなあ……。
 それが何故かは言わずもがなとしておいて、ならば次の、というか元の話である。
「この地区の鬼さんって、やっぱり金剛さん達と同じくらい強いんですか?」
 すると隣の浮草が「ほんっと好きですねえ」と馬鹿にした物言いをしてくるが、無視。金剛がそれに倣ってくれるほどの完全な無視を決め込んだ。
「……あー、同じくらい――まあ、同じくらいだな。だがそもそも、俺がどのくらい強いかなんて知らないんじゃないのかお前は」
「あ、灰ノ原さんと同じくらいって想定で認識で言っちゃいました。前にちょっとだけお世話になったんで」
 すると金剛、何やらシルヴィアと顔を見合わせた。どうも、二人揃って驚いたような表情を浮かべているが……。
「『強い』って、あいつが人からそんな前向きな評価をもらうことがあるものなんだな」
「ネー。アタシもびっクリしたヨ、殆ど『変な人』とシか思ワれないノにネ」
 ――…………。
 ――え、もしかして俺が変なんだろうか?
 困惑顔になるしかない田上だったが、それを見て金剛は薄く笑みを浮かべながら言う。
「あいつは鬼道ありきの戦い方が主だから俺達とは毛色が違うが、でもまあ、同じくらいだと思ってくれて構わんぞ。競うつもりもないしな」
「ドっちが上とか、そうイうのはむシろ今から会ウ人達の方だヨね」
 ――お? なんかこれ面白そうな話になってきた感じか?
「つまり、この地区の鬼さんとはこう、練習試合的なことを?」
「まあ、そんな感じだな」
 期待に胸を膨らませながら尋ねた田上は、その期待に添う返事を貰えたことで、
「あーらら、オモチャ買ってもらったチビッコみたいな顔しちゃって」
 と、浮草にそう言われてしまうような装いになってしまうのだった。
 田上はこれも無視。とはいえ実際には、これ以上のボロが出るのを恐れて反応しようにもできなかっただけではあったのだが。
 するとそんな様子を仲良くじゃれ付かれているとでも思われているのか、シルヴィアからはにこやかな視線が送られてくる。それは非常にむず痒痛辛いところではあったのだが、しかし一方金剛の方は、わざとなのかそうでないのか、こちらを気にするふうではなくこんなことを。
「ただ、その鬼の他にも合流したい奴らがいるんだがな……」

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