が、だからといってそこへ踏み込むような間柄ではない。田上は彼女から目を逸らし、そしてその逸らした先にいた二人へと話を向けた。
「そっちの二人、ほったらかして悪かったな」
 二人揃って死に掛けるような目に遭ったのに――と、
「ってあんたら、双子か何かか? えらいそっくりだけど」
 ここに来て初めて気付くようなことではないんじゃないか、と思わなくもなかったが、急場だったのは田上とて同じである。誰に責められるようなことでもないだろう……一体誰がわざわざそんなことを突いてくるのかという話でもあるが。
 というわけで、助けた少女と少年の二人組はそっくりなのだった。
「あ、いえ、えええっと」
 しどろもどろな様子を見せるのは少女。そこまで返事に窮するような質問ではないと思うのだが、助けを求めるように少年へと視線を泳がせると、
「従兄弟です」
 求めに応じてそう答える少年だった。そして、
「あと、俺は幽霊です。俺だけですけどね」
 とも。
「そうなのか?」
 自分は幽霊、つまり既に死んでいる人間だ、などという話は、それを信じるかどうかという点も含め、合ったばかりの赤の他人にするようなものではないだろう。
 しかしだからこそ、少年は知っていると見ることもできる。鬼道のこと、それを使えるのは鬼や修羅と呼ばれる者達であること、そしてその者達が自分と同じく幽霊であるということも。
 ……幽霊だったのなら助ける必要はなかった、とは言うまい。もうこれ以上死にはしないというだけで、車に牽かれれば死ぬほど痛いし、それに今回については、自分もまた助けられた側になってしまったのだから。
 そして、そういうことであるならば。
「さっきは悪かったな、思いっきり突き飛ばしちまって。怪我してねえか?」
「怪我はないみたいですけど……服がちょっと」
 そう言って少年が腕を上げると、その袖には穴が開いていた。余程お気に入りの服だったのだろうか、少年は随分と悲しそうにしていた。
「そ、それは……悪かった」
 怪我なら治るが、服はそうもいかない。元から小さいその身を尚のこと縮こまらせてしまう田上だったが、
「いえ、助けてもらったのにそんな。それよりも」
 と少年。今の様子の割にはあっさり立ち直ったようで、その表情は先程までの棘のあるものに戻っていた。
「鬼なんですか? あんた達。それとも修羅?」
「鬼?」
 やっぱりそのへんのことは知ってたのか、ということよりも、鬼だと思われた事への意外さが勝ってしまう田上。しかし、そう言われてみれば――。
 ――あー、男女のペアってか……。
 皆までは言わない、というか言いたくはなかったが、そういうことであるらしかった。
「いや、修羅だ。と言っても悪さはしねえぞ、俺はな」
 自分で言うようなことでないのは分かっているが、しかしそう言うしかないところでもあるだろう。一般的に見て修羅に悪人のイメージが付きまとっているというのは、田上も把握している。
 そして「俺はな」などとあてつけがましい言い方をした以上、ここで気になるのはやはり、それに対する荒田の反応だったのだが、
「えっ、修羅なんですか? 僕、てっきり鬼かと」
 動いたのは荒田でなく少女だった。分かり易いくらい驚いた表情をしていたが、しかしその勘違いの原因は先に思い描いた通りのものであるとして、それよりも。
 ――おいおい、こりゃ「僕っ娘」ってやつか? 現実にいるもんだったのかアレ……。
 思い出したのは、今神から借りた「マンガのような小説」。カラーかつイラスト付きのキャラ紹介だけ読んで投げ出してしまったし、小説のタイトルは覚えていないし、何だったらそのカラーのイラストすらはっきりとは思い出せないが、しかしそこだけは覚えていた。普段そういったモノにさっぱり触れる機会がない彼にとっては、インパクトがあり過ぎたのだ。
 ――うーん、でもそういう人が現実に居たとなったら、インパクトどうのこうの言ったら失礼なのかもしれねえけど……。
 そうして田上が顔をしかめている間に、困惑する僕っ娘、もとい少女へ、少年が反論する。
「いや、鬼だからってみんながみんな、俺らんとこの人達みたいに変な……変わった格好してるわけじゃねえだろ」
「そ、そうだよね。あはは」
 変な格好、というのは、さっきまで荒田がしていた白い仮面のことなのだろう。
 それはそれでいいとして、
「俺らんとこって、じゃああんたら、どっか他所から来たのか」
「ああ、はい。ここからはちょっと離れてるんですけど……いやあ、僕達が住んでるところの鬼さん達って、変な格好の人が多くて。神主衣装とか白衣とかナースさんとか……」
 田上に電撃が走った。
「あ、あんたらもしかして、灰ノ原さん達と知り合いなのか!?」
 田上のそんな勢いのある反応に対し、同じ顔をした少年少女は、やはり同じ顔できょとんとしていた。
 ちなみに荒田は、露骨に苦い顔をしていた。


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