「本人達もそんな感じですけど……何でなんですか?」
 重ね重ね田上の意を汲んでくれているかのような振舞いをする華道である。もちろん、彼女にそんなつもりは一切ないことだろうが。
「何故と訊かれると……」
「困っチャうんだケどネ」
 言いながら金剛とシルヴィアは件の二人――いや、少女の方にだけ、視線を向ける。何故と訊かれると困る、という二人に対し、少女の方もまた困ったような笑みを浮かべていた。
「こう説明するしかないんだが」という金剛の前置きから、二人はこう続けた。
「とにかく運が悪いんだ、そいつは」
「車に轢かレそうニなったんだヨね? 何度もアルよね、これまでニも」
 という話を聞いたところで少女の様子を窺ってみる田上だったが、力なく笑ってみせるばかりで否定の言葉は出てこない。合流前に少年が同じようなことを言っていたこともあり、であればどうやら、それは本人も含めた共通の認識ということであるらしいのだが――。
「いや、でもさっき、幽霊なのはそっちだけだって……あれ、逆だったかな」
 少年を指して言う田上だったが、なにせ同じ顔をしている二人なので、言った途端に自信を無くしてしまう。もし本当に少年が幽霊である、つまりは少女が幽霊でないとするなら、頻繁に先程のような目に遭っていれば身体が、いや命が持たない筈だが。
「それが不思議と怪我はしないんだ。なあ緑川」
「え? あ、はい。……ああ、今のってそういう」
 今更のような気もするが、どうやら少女は緑川という名であるらしい。というのはまあ、いいとして。
「在り得るんですか? そんなこと。いや、嘘だなんて思ってるわけじゃないですけど……」
「はは、まあ、信じられんのも無理はないだろうな」
 恐縮しつつも尋ねてみたところ、金剛は笑い飛ばす。実際のところがどうなのかはともかく、意識の上で笑って済ませられるレベルにまで達しているなら――あるいは落ちているなら、ここまでの対応にも納得はできる。もちろん、あくまでも少女に対する対応だけの話なのだが……。
「それは、人から助けられた場合も含めてですか?」
 華道が尋ねた。なんでこういう質問がパッと頭に浮かばねえんだ俺は、という田上の自虐は置いておくとして。
 華道のその言葉に、少女が肩を縮こまらせる。
「あ、す、すいません。駄目ですよね助けてもらったのにこんなんじゃ」
「ああいえ、そういうつもりじゃなかったんですけど」
 人から助けられるところまで含めて運のなせる業なのか、という話なのだろう。助けに入った側である田上としても、それは確かに気になる話ではあった。……いや、入っただけで助けられてはいなかったのだが。
 責めたつもりではない、と華道は言うが、答える少女の肩は縮こまらせられたままである。
「ええと、危ない目には何度も遭ってるんですけど……人に助けられたのは、二度目、ですかね……」
 ――二度でも多いと思うんだけど、多分「たった二度だけ」ってつもりで言ってるんだろうなあコレ。
「その話は後で、ということにしておいてくれ」
 聞かされる側としては当然、一度目がどういうものだったか聞かせてもらいたいところではあったのだが、しかしそれを金剛が止めに入る。
「あ、やっぱり人前じゃダメでしたかこの話」
 確認を取りに入ったのは少女、ではなく少年。と、いうことは。
 ――ちょっと前に言ってたあれかな。誰かに付け狙われてるとかいう。
 であるならば重ねて、と、いうことは。
 ――人前ってのは、俺と浮草のことなんだろうな……。
 華道と安藤については鬼ということもあり、そしてそもそも初めから会う予定があった以上、この二人は除外して構わないだろう。であればもう残るのは、という話である。
「というのは、話してしまったということか?」
「あ、いえいえ、そんな詳細なとこまで聞いたわけじゃないんで」
 それこそ人前で、とその「人」である当人が言うのも何なのだが、お説教染みた展開を繰り広げられても非常に困るので、ここは率先して問題がないことをアピールしておく田上。
 そしてこういう話になってしまった以上は、
「ええと……お邪魔でしたら俺ら、どっか他所に行きますけど……」
 ということになってしまう。これまでにも何度か思ってきたことではあったが、最早避けようもないだろう。


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